「あ、おかえりカイ早かったな」

「…ああ」


部屋に帰ると、レイはこの前カイが買ったテレビを見ていた。
ベッドの上に寝転ぶ姿はさながら猫だ。

「…面白いのか?」
ベッドのそばに荷物を置き、寝転ぶレイの隣に腰掛けるとカイは言った。おそらく見ているテレビ番組の事だろう。

「結構な、子供向けにしちゃ案外内容濃いぞ」
「…そうか」

それだけ話をするとレイはまたテレビを見始めた。画面の中では変わった形をした生き物が生活をしている。
することがないので仕方なしにカイもその番組を見ることにした。
そこにはテレビの音しか流れなかったが、確実に、二人だけの空間だった。

「今日」

その音に紛れるようにカイが口を開いた。金の視線がそそがれる。

「今日終業式だった。」

「?うん」

「・・・」

「?」

「だから・・・」

「ん、」

「だから」

カイは照れているのか、舌打ちとともに右手で頭をかきむしると、小さな声で早口に言った。

「明日からはずっとお前と居る。」


「…、」







ずっと返事がないのを不審に、少々不安にレイを見ると、
顔を伏せたまま、まるで金魚のように顔を赤くし口をぱくぱくとさせるので、つられてこちらまで熱が上がるのを感じた。
ばつが悪くて思わず再度舌打ちをする。

「…お前が嫌なのなら来ない」
「っちが…っ」


照れ隠しにそう言うとレイは本気にしたのか焦った声で訂正した。
その際、バッとレイが顔を上げたのでカイと視線がぶつかる。
そのまましばらく視線が交差し、カイは黙ったままで、レイはまた口をぱくぱくとする。

「…ちが…」
違うんだとレイは言って、微笑った。

「嬉しい、ありがとう」









まるで、


これではまるで恋ではないか。
カイは熱が冷めないままレイを見つめていると思わず泣きたくなった。

これではまるで普通の恋愛ではないか。



クッ


「何…やっているんだろうな、俺たちは」
「ははっ全くだ!」

青臭い恋をしているという自覚が妙に照れくさくて、思わず二人で笑った。

「よっし!そろそろ夕飯作るか、カイ何が良い?」
「この前買ってきた鮭があっただろう、あれで何か頼めるか?」
「わかった任せろ」

レイはベッドからおり、黒のエプロンをつけた。そのまま並んでいる扉のうちの一つを開ける。
以前は、台所の鍵はカイが持っていたのだが、レイが夕飯を作ると言って聞かないのでそれだけ外して渡してある。
どうやら鍵はかけていないようだ。
冷蔵庫の中から必要な食材だけを取り出す姿はさすがというか、手慣れている。
あっ、という小さい声の少し後にレイが振り返る。
「カイ明日牛乳買ってきてくれないか?切れてしまった。」
「ああ、」
「あと豆腐!半分でいいから」
「わかった」
「ありがと、頼むな」
「ああ」


そこでふと手を止めたレイが、ベッドに座るカイの前まできて膝をついた。

「?レイ」
「カイ、あのな、俺さ」

ひどく穏やかな、幸福そうな顔でレイは言う。

「今凄い幸せなんだ。なんでかわかるか?」

「っ…」

レイの笑顔があまりにも嘘でなかったため、とっさのうちに抱きしめていた。
腰に腕を回し、首元に頭を埋めながらその距離をなくすように力を込める。

「うん、カイ。俺幸せなんだ、」

不自然な部分で言葉を区切ったのでその体制のまま次の言葉を待っていると、
カイ自身の肩に徐々に浸透する温かさを感じた。

「レ、イ」

「カイ、あれから初めて抱き締めてくれたの知ってたか?」

顔をあげるとレイは綺麗に泣いて笑っていた。そういえば抱き締めたのはいつもレイが寝てからだった。

「そう…だったか…」

「ん…。だからさ、な」


レイの手が背中に回るのを感じた。

「もうちょっと、このままな」

レイはそう笑って、俺はまた泣きたくなった。












ザザ…

「…っ!?」

ザ…
ピンポー…ン



「…っ!」

突如聞こえたのは紛れもないあの音だった。
ベッドの奥からひそりと主張をする雑音、玄関に取り付けたマイクから音を受け取るスピーカー
初めはレイを独りだと分からせるために取り付けたマイクなのだが、今となっては憎い以外の何でもない。

(っ…鍵を掛けわすれたのか…!?しかし誰が何故)



その謎はいとも簡単に解けた。

ザ…



あの声だった。
カイ自身が最も恐れていた、彼の、ああカイとレイとの関係を知る人物、

それをもろいとばかりに崩すことの出来る、ああ彼。








『邪魔するぜー』













…畜生






畜生畜生畜生畜生畜生!