「あ、カイがいるネ」 そう云ったマックスの視線をなぞってみるとなるほどあいつが居た。 某金持ち学校の制服を着ている所から学校の帰りなのだろうが、迎えの車でないのが珍しい。 「ほんとだ。てかあいつ何やってんだろなー一人で」 「そうネーカイきっとセンチメンタルで一人になりたいんだヨ」 「はぁ?キモッ!ぜってぇありえねぇって!」 あいつは護衛もつけず、普段ではとても想像できない商店街をあるいていた。 世界大会が終わり3年が経った。 初めはこまめに連絡をとっていたものだが、カイが高校に入るとやはり次期社長だからか、 家族らが厳しくなり滅多に会えなくなった。面会を断られるのだ。 それでも月に一度はレイがあいつを連れてきては俺の家で談笑した。 でもこれからは 「そういやレイさ、あいつに言ったのかな」 「言った…とは思うんだケド」 「でもレイだって言ってたじゃん、最近会えないって」 「だよネー…」 レイは 最後まで中国に帰ると言うことを渋った だから俺たちだって知ったのはごく最近だ。 でも、俺たちが知ってる限りじゃカイには最後まで言わなかった。 「仲良かったし、言いにくかったんだろなー」 「ッテ、タカオ!カイ見失っちゃうネ!!」 「やべっまじ!?」 あいつは丁度商店街の細い路地を曲がったところだった。 「ちょ…っ!カイ待っテ!!」 一応運動部で体力はそこそこある俺とは違って、元からあまり体力のないマックスは、少し息を切らしながらカイを呼んだ。 「…なんだ貴様らか」 そういってあいつは立ち止まってくれた。 その間にハアハアと肩で息をし、呼吸を整える。 「っ…なんだじゃねぇよ、連絡も寄越さねぇで…」 「そうネ!最近すっかりゴブタサネ!」 「マックスそれ違う」 そんな俺たちのやり取りを見てあいつは少し笑った。 変わってない。 「相変わらずだな貴様らは」 そりゃお前だよという発言を飲み込んでカイに問うた。 「それよりお前どうしたんだよこんなとこで」 「貴様には関係なかろう」 「エー!教えて下さいネカイ!」 「…何故だ?」 「暇だったら今から遊ぶネ!」 「そうそう!俺らも暇してんだよー」 早々に終わりそうだった会話をマックスが必死につなぎ止める。折角会えたのだ、色々話がしたい。 「…では俺の家に来るか?」 「え?でもお前んちの人が…」 「…俺が買った家に、だ。」 カイにはつい最近購入したばかりのマンションがあるらしい。 気紛れで買ったのか交通の便は良くないらしく、この路地をしばらく歩いたところにあると言った。 全く金持ちの考える事はわからない。 「それでこんなとこ歩いてたわけネ」 「まああいつらにバレなければ何処でも良かったんだがな。」 「あいつらって…」 「貴様の言う俺の家の人間だ。」 そう言うとカイはつまらなさそうに眉をしかめた。 そうだ、懐かしいのはあいつらしいこの顔だ。 「ナルホド〜カイそれプチ家出だヨ!楽しそうネ!」 「別に遊びのために買ったわけでは…」 「んなのどうでもいいって!さっさと行こうぜ!」 「貴様ら…」 久しぶりにこのメンバーで笑った。遠慮なんかしないでふざけあえるのが嬉しかった。 そうだ、何も、 何も、忘れてなんかいない。 「…っくそ…!」 はあはあと荒い息をしてその場にうずくまった。 夏だと言うのに全く暑さを感じないこの奇妙な部屋で、レイは汗をかいていた。 「…なんなんだ一体…っ」 鎖は未だ、壁に埋まったままびくともしない。引き抜こうと言う考えがまず間違いなのだろうが、 今のレイにはその事を考える余裕がなかった。 「っはあ…」 さっき気付いたばかりだがこの部屋は常に同じ温度に保たれている。 確証は無いが微かにゴウゴウとクーラーの音が聞こえるのだ。 (俺を閉じ込めたのはカイだ。) これは確信だった。 第一にレイはカイに会ってからの記憶が無い。 次にこんな部屋を作れるのはカイをおいて他にいないだろう。 そして 「こんな優しいの…お前ぐらいだろ…?」 暑くも寒くもない。どうでもいい人間の体調を考えるわけがない。 「お前しか…いないだろ…?」 ベッドに片頬をおしつけ寝転がると、酷く柔らかいことに気が付いた。 そのまま寝てしまいたい衝動に襲われた時 『ガチャッ ザザ・・ ザー・・・ ザー』 「!?」 鎖が食い込む壁から音が聞こえた。雑音が混じることからマイクで音を拾っているのだろうか。 「なっ…?」 微かに笑い声が聞こえる。 レイは耳をその壁に精一杯寄せて必死に音を聞き取ろうとした。 するとそれに合わせるように音が鮮明になっていく。 『ザザ・・・ ザ』 『ザー …まっ…お前…つぬげ…』 「…?」 『…う…ほん…なんもねーじゃんお前の部屋!』 「…っ!?」 『でも部屋広いネー!』 「マッ…っ!?」 ザザ 『さっすがカイ!』 ザー・・・ |
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