最初に目に入ったのは白だった。 ぼやけていた意識がはっきりすれば何故白を一番に認識したのかがわかった。 そこの壁、天井、今の寝転んだ状態で見える限りの景色が全て白で統一されているのだ。 そしてまず頭に浮かんだのが疑問。 (此所は…) 何故見知らぬ場所にいるのか、此所はどこなのか、疑問は絶える事なく浮かぶ。 だからまず、視界の疑問から片付けていくことにした。 部屋、つまりは屋内だった。色はさっき言ったとおり白い。窓からの光で多少青色が滲んでいる。 今は早朝なのか夕方なのかそれすらわからない。 背中と指の感触からどうやらベッドに寝かされているようだった。ご丁寧に掛け布団までかけて。 首と視線だけを動かせて輪郭を探る。ぐるりと右から足下、そして左へ視線を走らせるとそこでまた疑問がちらついた。 (丸…?) そのままの意味で、この部屋は全く丸いのだ。 顔を真横に向けるとそのすぐ上に壁と壁が出会う隅があるので半円といったところだろう。 こんな形状、普通に生活していたらまず見ることはない。 そして、その半円の真ん中、足下を見る視線の延長線上にぽっかりと穴があった。 穴と言っても、縦長のドアを取り払ったような形をした通路があるだけでその奥の扉もかすかだが見えている。 ただその距離が少し長いのかまるで穴のように暗いのだ。 (・・・全く意味がわからない。) 沢山ある疑問のうち、最初からつまづいていては何も解決しないので、 もっとよく見ようと起き上がったそのとき ヂャラ 「・・・っ!!?」 手首に違和感を感じ、視線を落として見るとそれは黒く光った。 もとは銀に光るのだろう、手錠だった。 ブラウン管上の警察が持っているような、あの手錠だった。 何故今まで気付かなかったのか、それは両手両足に存在を主張し、動きを鈍らせる。 起き上がったときのあの重い音は手錠から出たものらしく、 そこから繋がっている鎖が、起き上がったときの衝撃でベッドを伝って床に流れ落ちた。 嫌な音が部屋に響く。 呆然とそれを黒を眺めていたがハッと気付いた。 此所はどこなのかという疑問がまだ解決されていないと言うことに。 鎖は長かった。己が寝かされていたベッドの上部を通り抜け、その先の壁に固定されていた。 ベッドの部品に取り付けられていればどうにか外すことも可能かとも思ったがこれではそうもいかない。 鎖を付けたまま歩くと丁度部屋の壁に突き当たった。 どうやら調節して長さを決めたらしい。 例の穴の場所まで歩いてみたが穴の入口までしか鎖はなく、手を目一杯延ばしてもドアまでは遥か遠かった。 部屋にはいくつもの扉があった。開き戸らしかったがどれも鍵がついている。 入れるのは鍵のないトイレくらいだった。少し近めに作ってあるのか扉をしめても尚余裕がある。個室の中には水道もあった。 次は半円の直線の部分、窓をみた。5、60センチほどの出窓だった。横の長さは分からないがとにかく長い。 窓には大きな窓が3枚貼られており、何処にも開ける場所がなかった。 そのかわりというのか、換気扇がその上の壁に付けられている。 窓の外を見てみるとこれこそ眩暈がした。まわりにぽつぽつと建物が見えるだけで視界は開けている。 異様に高い場所にこの部屋はあるのだ。もしかしたら最上階なのだろうか。 下を見ると蟻のような車がせわしく走っていた。 窓ガラスは普通のものではないらしく叩くと鈍い音がした。防弾ガラスのようなものなのだろうか。 「・・・っ嘘だろ・・・」 そしてこの部屋に自分がいる事実、つまりは完全に軟禁、いや監禁されてしまったのだ。 「冗談じゃない…」 ハアと、広い部屋に静かにため息だけが消えていった。 本当、冗談じゃない。一体此所はどこなのだ。 それにまだ何故自分がこんなところにいなければならないかがわかっていない。 一体何があったというのだ。 そこで記憶を逆上った。 確か今日(実際ではどうかわからないが、今の感覚では眠っていた時間を考えても一日しかたっていない) は中国へ帰る予定だった。 荷物は昨夜まとめてあったので、朝一番で帰国しようと早起きしたのだ。そして空港に… (あれ・・・?) (空港に行く前に俺は) 嫌な、汗が背中を伝った。 靄がかかったような脳を無理に働かせて記憶を辿った。 思い出させたくないのか記憶はそこに辿り着けない。 (俺は確か) 咽が渇く、 唾液の分泌もとまってしまったのか。 (確か) 俺は 「カイに・・・」 |
07/10/14